5巻52ページ
ハルベラ
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「女魔法使い(セイズコナ)! お前は予言者(スパーコナ)か?呪術者(マッティバー)か?それとも巫女(ヴォルヴァ)か?」
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セイズコナとはおそらく「セイズを行う者」という意味だと思います。
(本などではその名は発見出来ませんでした)
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サイトをご覧になった方からメールをいただきました。
知人のノルウェー人に聞いてみたところ「セイズ(Seid)」というのは「Wize Man」つまり「賢者」「魔法つかい」、「コーナ」は「女」だそうで、「セイズコナ」とは「女魔法使い」という意味なんだそうです。
(2011/1/1 追記)
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北欧に伝わる魔術には、ルーンの他にセイズ(セイド、seidhr)、ガンド(gandr)という魔術があり、ヴォルヴァ(Volva:巫女)と呼ばれる女性が行っていたようです。
ガンドは幽体離脱の様なもので、「ガンド」は「杖」と「狼」という2つの意味を持っています。身体から離れた魂は杖に乗って、あるいは狼などの獣の姿になって自由に動き回り、遠くの事を知る事ができるという魔術です。
ヴォルヴァはトリネコの木で作られた杖を、魔力を集中させたり発動させたりするための媒体として使用します。杖で殴るような仕種で呪いをかけることができ、呪われたものは病気になったり死ぬ事もあったようです。
杖にはルーンを刻む事もありました。
セイズは降霊術で、呪術者がトランス状態になり神々や先祖の霊を引き降ろすというもので、ハルベラのいう「神降ろし」とはこれを指しているのでしょう。依りましの他に呪歌(ガルドル)を歌ったり呪文を唱えたりする巫女も必要なため、儀式は複数で行われたようです。
スノリのエッダによるとセイズとは予言の儀式のことで、その慣習を創始したのは北欧神話のヴァーネン神の女神フレイヤのようです。彼女は性に対して奔放な性格で、その事をロキに罵倒されたり、首飾り「ブリンジンガーメン」を手に入れるために、首飾りの制作者の4人の小人と一夜ずつを共にするという条件をのんだりといった逸話を持っています。
儀式は男も女も行うことが出来ますが、一般的にはヴォルヴァ、あるいは女予言者が主役を果たすことが多く、サガに出てくるこういった儀式の話は、中央アジアや北アジアのシャーマンの儀式と類似点があるみたいです。
女予言者は様々な動物の毛皮で作られた特別な衣裳(お守りやマントも含まれ、中でも頭からかぶるものが主要な部分であったらしい)を身に纏い、一本の杖を持ち、呪文を唱えると霊が呼び出され、霊は女予言者に隠されたことごとをあかしました。儀式の時は女予言者は特別な足場、または高い段の上に座り、没我の境に入っていくように見えたらしい。その後で未来のこと、失われたものに関わる知識を知り得たようです。そして個人の宿命を予言し、飢餓や魚影の欠乏にはどうすればよいのかという助言を人々に与えます。
セイズは有益な呪術として主に用いられていましたが、時には悪の目的のためにも用いられるものでもあり、負傷や死を招くとも信じられていたようです。そのためハラルド美髪王※はセイズの慣習にふけっていたという理由で、自分の息子の一人とその取り巻きの魔術師の一団に死を与えたと記録されています。
※ハラルド美髪王(875〜952) 全ノルウェーを従えるまでは髪の手入れをしないいう誓いをたてていたので蓬髪のハラルドと呼ばれたが、統一後は入念に髪の手入れをし、美髪王と称せられた。
『赤毛のエイリークのサガ』では、「セイズ」の呪法とは高度に呪術的な儀式であり、霊をおびき寄せるための呪歌(ヴァルズロックル)が歌われるものと記されています。『ヴァッツデーラ・サガ』では「手の込んだ呪術的な予知の儀式」となっています。
ヴォルヴァは神話の中にも見られ、オーディンがバルドルの運命を知るために馬に乗って死者の国へと赴き、女予言者ヴェルヴァに答えるよう強要したというくだりがあります。また、世界の創造と破滅についてうたう「ヴェルスパー」という詩は、こういった女予言者が語った言葉として表現されています。(「ヴェルスパ」とは一般的にに「ヴォルヴァの予言」の意味で使用されるようです)
スパーコナは神がかりの状態や水晶などで、予言・予告などを行い、時にはセイズ魔法も使用することもありました。
9巻96ページ
ソリル
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「魔法は女の領域だ。男がかかわるのは恥なんだぜ。俺達の慣わしではよ」
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レギオン
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「おぬしらの父なる神(オーディン)は魔法使い(ドルイド)でもあったのではないかな。しかも神々の族長たる身でありながら片目だった」
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セイズ魔術は儀式の最中に性交時のエクスタシーを感じるものらしく、男性がセイズを行うという事は、男性の同性愛での女性役を行うのと同意義なため、恥とされたのでしょう。
しかし、サガにはエギルのように尊敬された戦士がルーンを使う場面も出てきます。武術の研鑽を怠り、魔術に頼るようになることが恥だったのかもしれません。
オーディンはエッダの中でも人間の世界にしばしば姿を現します。その度に違う名前を名乗りますが、いつも片目で髭を生やしつばの広い帽子を被って長いマントを着た老人の姿で現れ、その姿で人間達はその人がオーディンであることを知るのです。
8巻 130ページのオーディンの騎行では、帽子にマントというトレードマークともいえるいでたちで、オーディンが描かれています。