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◆アルプスの竜伝説

アルプスには竜伝説があるようです。
図書館で偶然見つけました。

アルプスに棲む竜は最初氷に閉ざされた北極に近い地方に棲んでいたが、アイス・エイジと呼ばれる時代に、北ヨーロッパの方から移住してきたと伝えられている。(どうやら複数いたらしい)

竜の身体は牡牛に似て足はカエルのように前の2本は短く、後ろの2本は長い。18メートル以上の太い尾をもち、移動はカエルのように後ろ足で地面を蹴って飛び、一回の飛ぶ距離は1キロ前後だった。
貪欲で残虐な性質で、ひとたび暴れ出すと人や家畜のみならず、畑や果樹園、森林や川など、至る所に甚大な被害をおよぼした。ひとたび居を構えると、何十年、時には何千年もの間、山の斜面に沿って少しずつ移動するだけだったが、食べる物がなくなると他の土地へと移動した。
竜の鱗は岩や鋼よりも固く、どんな刀もまったく刃がたたないため、退治は絶望的だった。人も獣も、気味の悪い燐光に輝きく大きな目で睨まれると、目が見えなくなりふらふらと自ら竜の口ヘと飛び込んで行った。

ある時、領主達は相談して、竜退治をした者には過分な報賞を出すことにしたが、立ち向かって行った魔術師や騎士達は皆竜に殺されてしまったばかりか、竜を怒らせてしまいさらに被害はひどくなった。竜はしだいに麓の人家近くまで迫ってくるようになってしまったのである。

領主達は再び知識人達を集めて相談したが、一人の魔術師が竜を退治するただ一つの方法を提案した。それは「ソロモン王の刻印が入った、ソロモンの指輪を手に入れ、そこに刻まれた呪文を解く事ができるただ一人の聖者に解いてもらう」というものだったが、指輪の所在も呪文を解読してくれる聖者の居場所もわからないのだった。
勇気があり、気立ての良い一人の青年が名乗り出て、彼が指輪の探索に出発する事になった。「知恵は東方より来る」という古い伝説に従って、東へと旅をしはじめて4、5年くらいたった頃、東方の聖者に出会う事ができ、彼は事の次第を話して教えを乞うた。
「人間ではそなたを導ける者はいないが、鳥の言葉を理解する事ができれば、空翔る鳥がソロモンの指輪の在り処へと導くであろう」
聖者は月明かりの夜に一人で採集した九種の草の汁から醸した酒を毎日九匙ずつ青年に飲ませ、3日続けると彼は鳥の言葉を統べて理解出来るようになった。

聖者のもとを旅立つ時青年は、「今は何も出来ないが、指輪を手に入れ竜を退治できた時には、必ずご恩に報いることが出来るだろう」と言うと、聖者は「もし指輪を手に入れたら、ここへ戻っておいで。私が指輪に刻んである呪文を解いてあげよう」と言って送り出した。

半年以上旅を続けたある日、青年は森のとある木の根本で夕飯を食べていると、頭上の木のてっぺんで見たこともない美しい鳥が2羽、ソロモンの指輪を求めて旅している人間がいる、といううわさ話をしているのが聞こえてきた。
彼らによると、
「ソロモンの指輪は森の精の秘蔵物であり、たとえ見つかっても手に入れることは難しいだろう。しかし、森の精は3日後にこの森の泉の水で顔を洗う。毎月、満月の夜にその泉に姿を映すことで彼女は永遠に年をとらずいつまでも美しいままなのだ」
2羽の鳥は、これからその泉に行って、森の妖精を眺めるのだという。青年は苦労して鳥の後を付け、泉へとたどり着いた。
太陽が沈み、大きな満月が泉を照らすと、どこからともなく一人の美女が現れ、月を仰いでから泉の水で顔を9回洗い、月への祈りの歌を歌いながら泉の周りを9回周り、また泉の水で顔を9回洗い、長い髪で拭いてから泉を離れて振り返った。そして初めて木の根本に座っていた青年に気がついた。

森の精は「私の秘密を見た者は罰を与えるのだが、あなたは何も知らない様子。今夜だけは許してあげよう。今宵は私の館でお休みなさい」と自分の館へ招き、青年はその言葉に従うことにした。その時梢から「決して心を許さず、魂を渡さないように」と小鳥が囁く声がした。

青年は、立派な庭園のある豪華な調度品に囲まれた屋敷ですばらしい食事をし、しばらく歓談した後、次の間の扉が開くとそこには寝台と眠気を誘う香水の香りが漂っていた。青年は小鳥の忠告を思い出し、「考え事があるから」と言ってソファーで横になって朝を迎えた。

2日目の夕食の後、森の精は「私の気持ちはお察しでしょう。私の願いは叶えられますか?」と彼の手を取って語りかけた。「もし拒めばこのまま返すわけにはいきません」
青年は「3日時間がほしい」と頼み、別々の寝室で休んだが、その間にも森の精は青年の心を奪おうと財宝が飾られた邸内を案内して回った。最後に彼女は小さな黄金の箱が置かれた秘密の部屋へ招き入れ、「これは指にはめると不思議な力で願いが叶うという、世界にただ1つしかない貴重な指輪。もし願いを聞き入れてくれたら、これを差し上げましょう」とその箱を示した。
青年ははやる気持ちを抑え、指輪についての説明を求めた。
「これはソロモン王の所有物だった物。その証拠に王の刻印と呪文が刻まれています。しかし人間には呪文の意味はわからない 。私ですら一部しかわからない。あなたと出会った夜、この呪文の秘密の儀式を行っていたのです。左の小指にはめると鳥のように自由に空を飛べ、薬指だと姿が見えなくなる。中指にはめるとどんな武器にも傷つくことが無く、人差し指はどんな物もたちまち目の前に現れる。親指にさすとどんな物も破壊できる頑丈な手になります」

青年は策略をめぐらして「指輪の力を見せてほしい」と森の精に頼むと、彼女は指輪を人差し指にはめ、自分が傷つかない事や見えなくなることを証明して見せた。次は自分にも試させてほしいと頼み指輪を受け取り、一つずつ効果を試しながら素早く薬指にはめ、姿が見えなくなるとその場をそっと離れ、大急ぎで広い庭の隅まで逃げ、小指にはめ変えて鳥になって空高く舞い上がった。

森の精は初めは冗談だと思っていたが、騙されたことを知り怒り狂った。 青年は聖者の元に飛んで戻った。聖者は七週間かかって呪文を解読し、竜退治の方法を教え、竜退治の後も指輪は決して無くすことの無いようにと言った。そして指輪の呪文を解くことで自分は貴重な予言の知識を得ることが出来た、報酬はそのことで十分だと言い、青年は指輪の力で空を飛んで故郷へと帰っていった。

青年が指輪を探し求めている間、アルプスでは竜の被害を防ぐために高い防壁を作ったが、5月のある日天に黒雲が巻き起こり雷鳴が轟くと、ものすごい大音響と共に雪や氷、土砂、岩石が一度期に雪崩落ち、防壁などはひとたまりもなく、一つの村が全滅の憂き目にあった。
アルプスへ帰り着いた青年は聖者に教えられた通り、指輪を親指にはめ車輪のついた鉄の馬に乗り、両先端に矢尻のついた長い槍を持って竜に近づき、竜に飲まれそうになる瞬間、槍を竜の下顎に突き刺し鉄の馬から飛び降りた。もう一方の槍の先は上顎を貫いた。槍の真ん中にあらかじめ結んでおいた頑丈な鎖の両端を、素早く鉄の杭に結びつけた。顎を串刺しにされ鉄の馬を噛みしめた竜は目から火を噴き死にものぐるいに暴れ、大地は地震のように震えた。三日三晩苦しんで竜はつい静かになった。

青年は巨大な岩を振り上げ頭にとどめの一撃を与え、竜はついに息絶えた。 青年騎士は武勇を讃えられ、領主の愛娘を妻に迎え、新しい領主となった。しばらくは盛大な宴が催されたが、竜の死骸は日に日に腐り悪臭を放ち、屍からは毒血が流れ河へ注ぎ込んだ。毒気に当てられて数百人が命を落とした。考えあぐねた新領主となった青年は、聖者の元を訪れることにした。
旅立つ前に妻に「すぐ戻ってくるから心配しないように」と言って指輪をはめ、鳥になって飛び立った。一方、指輪をだまし取られた森の精は指輪を取り戻そうと隙をうかがっていたが、このときとばかり姿を鷲に変え、後ろから襲いかかって小鳥を捕らえ、指輪をもぎ取った。そして深い洞窟に閉じこめ、手足を鉄の鎖で縛り天井からつり下げた。

「指輪をだまし取ったばかりか姫と結婚して私に恥をかかせた罰だ。死ぬまでこの天井からぶら下がっておるがよい。すぐには死なぬよう、毎日食べ物は与えてやる」そう言い残して女は立ち去った。
夫が帰ってこないので姫は国中の魔術師に騎士の居場所を探させた。その結果ひどい危難に遭ってはいるが命はあることが判明したが、救い出す手だてはわからなかった。

ある日北方のフィンランドから有名な魔術使いがやってきて「彼は人間ではない悪魔の手にかかり東方の地で呪縛されている」と進言した。姫の父の前の領主は指輪の呪文を解いた聖者の元へ死者を使わし教えを乞うと、聖者は祈祷して「居場所はわかったが悪魔のために呪縛され、洞窟の中で罰を受けているが、人の手では救い出すことは出来ない」と言った。

聖者は使者と共に洞窟へ赴き、領主を救い出した。7年の月日が経っており、領主はすぐに聖者が来たことがわかったが、その他の者はあまりの痩せ衰えように自分たちの領主であることがわからないほどだった。
体が回復すると領主は聖者に礼を言い、自分の国元へ帰ったが、年老いた前の領主は心痛のあまり娘婿が館の門をくぐった瞬間に息絶えてしまった。竜の死骸がもたらした災いも次第に薄らぎ、領主もアルプス山下の国々もその後は穏やかに過ごしたということである。

ソロモン王
イスラエル王国を最大まで広げたと言われる、紀元前10世紀頃の実在の人物。「ソロモン」とは「平和の人」という意味で、父であるダビデ王に治世が平穏であるようにと付けられた。聖書の「列王紀上」や「歴代志下」などによると義兄アドニヤの王位継承をめぐる反乱を抑えたあと神の啓示を受け、神から知恵と知識を授けてもらったと言います。 またソロモンは魔人を使役していたと言われ、7年かかって壮大な神殿を建てたが、ユダヤの伝説によるとペルシアの魔人アスモダイを捕らえて、神殿建設用の石を切り出すのに必要な物質の手に入れ方を聞き出したと伝えられています。

ソロモンの伝説に基づく魔術書には『ソロモンの誓約(Testament of Solomon)』『レメゲトンあるいはソロモンの小鍵(Lemegeton or the Lesser Key of Solomon)』『ソロモンの鍵(Clavicle Key of Solomon)』などがあります。聖書では晩年は異教徒の1000人の妻達のためにアスタロト、モーロックなどの魔人の言うがままになっていたとなっていますが、コーランやアラビアンナイトではアラビアの魔神ジンやイフリートを使役し、彼らを壺や指輪に封じ込めたとなっています。