アイスランド(作中では火と氷の島)の伝説によれば、時の初めには砂も氷海もなく、大地も存在せず、ただ深く裂けたギンヌンガガプと呼ばれる深淵だけが存在していました。そのうち大雲と闇との世界であるニフルハイム(ニフルヘイム)がその深淵の北に当たる地方に形作られ、ニフルハイムの中央にはヒウェールゲルミールの泉が涌き、そこから氷のような水が12の河となってこぼれて流れ出ていました。
やがて南の端には火の国ムースペルスハイムが形作られ、底から流れ出る河々の水は激しい毒を含んでおり、その毒は徐々に凝結して溜まっていきました。この沈殿物は北の方から流れてきた水によって厚い氷花の下に覆い隠され、さらにこの氷花の堆積物はある部分では深淵を埋め尽くしていました。
南から吹き送られた熱い大気が氷を溶かし始め、その滴から人間の形をした巨人が生まれました。これがあらゆる生物の中で最初に生まれた、すべての巨人の父ユミルです。
ユミルが汗をかくと、彼の左腕の下から巨人の男女が1人ずつ生まれました。同じ頃、ユミルと同じように溶けた氷の滴から、巨人達の養い親となる牝牛のアウドゥムラが生まれました。アウドゥムラの乳は四つの小川となって流れていき、牝牛自身は氷山に含まれる塩をなめて生きていました。
氷山を舐めることによって牝牛アウドゥムラは1人の生き物の髪、頭、そして全身を生じさせました。この巨人はブーリー(ブーリ)といい、その子どものボール(ボル)は巨人たちの娘ベーストラを妻とし、三人の子どもをもうけました。これがオーディン、ヴィーリー、ヴェーの三神です。
オーディンたち若い神々は、若く賢かったので不毛の大地を耕し何かを作り出そうとしましたが、霜の巨人達は源泉から涌き出る幾筋もの流れを凍らせ、オーディンたちが自分たちのものだと言い張ろうとする場所に氷のかたまりを押し流してきました。また、ユミルも音を立てて騒ぎ立て、ユミル自身の身体も成長してますます多くの場所を占めるようになってしまったのです。
そこでオーディン、ヴィーリー、ヴェーの三神は同じ巨人族である他の巨人すべてに戦いを挑みました。
まず老いてしまった巨人の父ユミルを殺し、他の巨人達も殺していきました。死んだ巨人達の肉体からは多くの血が流れ、そのために深淵は血で満たされ巨人たちはすべてそこで溺死するほどでした。ただベルゲルミールという巨人だけは、小舟に乗っていたので妻と共に生き延びる事が出来たので、この夫婦から新しい種族が誕生したのでした。
オーディン達三神は死んだユミルの肉体を血の海から引き揚げ、それで大地を作りました。その大地の名は、ニフルハイムとムースペルスハイムの中程に位置するため「ミズガルズ(ミッドガルド=中央の地:人間の住んでいる大地を指す。この時はまだ人間はいなかった)」と呼ばれました。巨人の肉は土壌となり、その血は海となりました。その骨で神々は山を作り、その髪を樹木とし、頭蓋骨は持ち上げられ、ヴェストリ、スドリ、アウストリ、ノルドリという小人を四隅に置いて、4人の小人が柱のように頭蓋を支えて空の円天井となりました。脳髄からは雲を作って、その中にはあられと雲を詰め込んでおきました。この天蓋の上に火の国ムースペルスハイムから脱れ出てあてもなく飛びまわっていた火花を据え付け、太陽や月、無数の星々が創られたのです。
人が住めないウートガルドと呼ばれる「外の世界」から、ミッドガルドを守るために、神々はミッドガルドのまわりにユミルの眉毛で作った壁を巡らせました。ウートガルドは巨人の生き残りであったベルゲルミールの子孫の巨人達が住むことになりました。
神々は星の運行を調整し、昼と夜の時間、そして年の長さを決めました。太陽は光と熱を広大な大地に注ぎながら南の空をめぐり、やがて大地に緑が芽吹きます。
何処からか、他の神々がオーディン達に加わりました。新しく来た神々は彼らの住まう天の住居<アースガルド>を創るべく、一緒に働きます。アースガルドには神々の個々の居所があり、大広間では客人が迎えられ酒宴が開かれていました。
神々は神の住居と人間の住まう場所との間に大きな橋を架け、ビーフロスト(ビフレスト)という名を付けます。この橋は真っ赤な焔を上げており、赤だけでなくいろいろな色彩をあげて光っています。この橋とは虹のことなのです。
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