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水晶竜の巻

ケルトの神々
ケルトの風習
常若の国
ティル・ナ・ヌグ
マーグ・メルド
地 名
妖精たち
クリスタル☆ドラゴンに
見られる北欧神話
◆常若の国--ティル・ナ・ヌグ--(Tir-nan-Og)

 

1. 常若の国

ゲール人の先祖であるミレー族(ミレシウスの息子たち)に破れたトゥアザ・デ・ダナーンは、小さくなって砦や丘などの地下に宮殿を建て、シー(妖精)となりました。この妖精の国のことを常若の国(ティル・ナ・ヌグ-Tir-nan-Og-)と呼び、地下だけでなく海の彼方にもあると信じられていました。
この他にも「楽しき郷(マグ・メル)」「喜びヶ原(メグ・メル)」「至福の島(イ・ブラセルまたはハイ・ブラセル)」などと呼ばれていたようです。

「常若の国」の王はマナナン・マク・リールで、「常若の国」には常にりんごの実がたわわに実り、生きている豚といくら食べてもなくならない料理された豚、飲んでもつきることのない麦酒(エール)がありました。

アリアン「“マーグメルド”……妖精(シー)の国 死者達の生きる国?」
パラルダ「そう 花は咲き乱れ 日はやさしく 人々は永遠に若い… 幸福だけがある地です」
1巻161ページ)

「デ・ダナーンは行ってしまった
人間たちとの戦に敗れ 西の海の彼方“歓びの野(マーグメルド)”に…
あるいは水底の国“青春の地(ティル・ナ・ヌグ)”に」

(4巻122ページ)

物語の中では、「歓びの野・マーグメルド」は死後に再生する“あの世”で、「常若の国(青春の地)・ティル・ナ・ヌグ」は妖精の王が支配する妖精の国、という位置づけのようです。

ケルトの神話や伝説には、「常若の国」と思われる異界の島の話は数多く見られます。主なものを次にご紹介します。

 

2. ケルト神話の常若の国

海の下の妖精の島「フィンコリー島」〜トゥレン三兄弟の試練の旅〜

デ・ダナーンがフォモーレを破る少し前のことですが、邪眼のバラー(バロール)らフォモーレの軍勢が、島の西に上陸したという知らせをうけたヌァダ王は、父キァンと二人の叔父に助けを求めました。キァンは妖精の軍勢を整えるため北へ向かいますが、途中で普段から仲の悪かったトゥレン家の三兄弟に出会い、殺されて埋められてしまいました。父が帰らないので探しに出かけたルーグは、道ばたの石に呼び止められ父の最後の様子をきかされます。掘り出した死体は石が語ったとおりであったので、ターラに戻ったルーグは、ヌァダ王や貴族のまえで父の仇を討つための8つの償い(エリック)を要求したのです。
三兄弟は自分たちの罪を償うため、ルーグから魔法の船「静波号」を借り旅立ちました。果たすべき償いは他国の王の持ち物を持ち帰る事であったり、難関な行為を成し遂げるであったりするのですが、その中の一つに「水の底にある妖精の国フィンコリーの女たちが使っている焼き串を持ち帰る」というものがありました。
三ヶ月もの間海を漂ってようやく「フィンコリーは海の下にある」ということがわかり、兄弟の一人が魔法の水着を着て二週間海底を探してやっと島にたどり着くことができました。この島は海草がゆれて鈴のように鳴り響き、赤い髪の娘たちが海底の光の中で宝石の周りに金で刺繍をしながら、美しい歌を歌う島でした。
妖精の好意で焼き串を手に入れられた三人は、最後の償いで深い傷を負い、迎えに出た父親に、焼き串をルーグに渡して代わりに魔法の豚の皮を借り、自分たちの傷を癒してほしいと頼みます。しかしルーグはその頼みを断り「多くの武勇を残し後々まで語り継がれるほどの栄誉と名声を得られたのだから、もう傷を治して生きる必要はない」と言ったため、三兄弟は息を引き取り、父もまた彼らの上に身を投げて息絶えたました。三兄弟の妹イーネは四人を一つの墓に葬り武勇伝をオガム文字で碑文に刻みました。

 

3. アルスター(ウルスター)神話の常若の国

マーグ・メルドへ行ったク・ホリン

ク・ホリンの伝説の中には、こんな話もあります。
ルーグの息子であるク・ホリン(クーフーリン)は、マーグ・メルド(幸福の野)へ魔法の船で赴き、そこでマナナン・マク・リールの棄てられた花嫁、女神ファンドと恋に落ちました。1年後の再会を約束してク・ホリンはウルスターへと帰ります。
ク・ホリンにはエマー(エメール、アヴェール)という美しい妻がいたのですが、この女神とク・ホリンの再会の場面に来てしまい、彼女の嘆きに心を動かされた女神ファンドは、エマーにク・ホリンを委ねて、ファンドを探しに来た夫のマナナンの元へと帰ってゆきました。

 

4. フィアナ神話の常若の国(紀元200〜300年頃)

常若の国へいったオシーン

フィンは「銀の腕の」ヌァダの孫娘マーナを母親とし、父親はバスク家のクール(空という意味)でしたが、父は敵対しているモーナ家に殺されたため、母のマーナはフィンを二人の老婆に預け、チリイ王のもとへ嫁ぎました。
若者になったフィンはドルイドのフィネガルへ弟子入りし、そこで知恵の榛の実を食べた「知恵の鮭」を口にして、世界のあらゆる知恵を身につけることができたのです。その後王宮へ出仕し、ターラに出没する妖怪を退治してフィンはフィアナの騎士団の首領となりました。

ある時フィンは森の中で1匹の子鹿に出会います。子鹿は実は妖精の求婚を拒んで鹿にされてしまったサヴァという女性でした。フィンの館に入ることで魔術が解け、二人は結婚して男の子が生まれますが、フィンが留守の間にサヴァと息子は魔術でつれ去られてしまい、方々を探しても二人は見つかりませんでした。
何年かたち、フィンが森で狩をしていた時、7歳くらいの男の子をみつけ、館へ連れ帰ります。その子の話からサヴァと自分の息子であることを確信し、オシーン(子鹿)と名付けました。
次の話は、ティル・ナ・ヌグから戻ってきたオシーンが、聖パトリック※に語ったという話です。
※聖パトリック(385?-461?)…アイルランドの社会に即した教会制度を作ったキリスト教の聖者

「ある霧深い朝、私達フィアナの騎士はレイン湖の近くで狩をしてました。すると突然、西の方に白い馬に乗った金髪に青い瞳の美しい乙女が現れました。細い金の王冠を頭につけ、金のブローチでとめられた絹の茶色いマントは、金の星が光り裾は長くひかれていました。

父フィンが彼女に用件を訪ねたところ、『私は西の海の彼方にある常若の国の王の娘、金髪のニァヴです。あなたの息子オシーンに愛を捧げようと旅をしてやってきたのです』と答えました。私は彼女に心を奪われてしまい、あなたをおいて他に妻になる人はいない、と言いました。すると彼女は『一緒に白馬に乗り、常若の国へ行くことをあなたの誓約(ゲッシュ)にします。常若の国は若さの国、太陽が輝く喜びと楽しさの国、金銀宝石にあふれ蜂蜜と酒も絶えることなく、木々には果実が、緑の枝には花々が咲き乱れているところです。住民は苦しみや老いることもなく楽しい宴が続き、あなたが望めば何百という勇士がお側にはべり、たくさんのたて琴が美しい調べを奏でます。私はあなたの妻となり、あなたは常若の国の王となって、色褪せぬ若さと雄々しさにあふれた国を治めるのです。さあ一緒に常若の国へ参りましょう』と、歌うように常若の国のすばらしさを語りました。

喜んで一緒にゆく、と言う私に、父フィンはこの世でもう二度と会えないだろうと嘆きました。すぐにまた帰ってくるからと約束し、ニァヴの後ろにまたがりますと、白馬はすばやく西の方角を目指して駆け出し、海辺へと着きました。
白馬は金のひづめが水に触れると三度いなないて、見る間に三月の雲よりも早く雲をこえ、海の上を駆け続けました。島陰は見る間に消え、波が飛沫となり霧になって、霧の中に様々な不思議な光景を見ました。途中、フォモーレの王宮に幽閉されていた、妖精の女王を救い出したりもしました。
そのうち嵐の雲がきれて日の光が射し、彼方に花が咲く緑の野や青い丘や湖が見え、金や色とりどりの宝石で飾られたすばらしい宮殿がある、常若の国へと着いたのです。金とダイヤモンドの王冠をつけた王と美しい王妃、豪華な服装の高貴な人々が出迎えてくれ、王はみなに私を紹介してくれました。王はニァヴは私の妻となり、いつまでもこの国に滞在してくれてかまわない、と言ってくれたのです。

三年のあいだ、私はここで楽しく暮らしていましたが、父やフィアナの騎士団の友人たちに会いたくなり、エリンヘ行かせてほしいとニァヴに頼みますと、ニァヴは『もうあなたと二度と会えなくなるかもしれないと思うと悲しい。エリンはもうあなたの知っているエリンではなく、聖人や僧侶であふれ、フィアナの騎士団も過去のものとなってしまいました。この白馬があなたをエリンへお連れしますが、どうか白馬からは降りないで。あなたの足が地にふれたのなら、もう二度とここへは戻ってくることはできないのです』

私はけして白馬から降りないとニァヴに約束し、白馬に乗って海をこえ、エリンの西の海岸に着きました。懐かしい故郷は以前とはすっかり様変わりし、友人たちの家も見えず、野や山は小さく縮んでしまったように見え、小さい人々が小さな馬に乗ってやってくるのに出会いました。彼らは私の大きな体に驚き、興味を持ったようでしたが、私はその人たちにフィンとその騎士たちのことを尋ねました。すると『ずっと昔にフィアナという騎士団の首領をしていたという英雄フィンのことは、いろいろな書物にも書いてあるし、知っています。息子のオシーンという人は妖精の娘と常若の国へ行ってしまい、父親や友人は悲しんだそうだが、とうとう帰ってこなかったということです』と答えたのです。

父の館があったアレンの丘には雑草の茂る中に廃墟が建っていました。思い出の地を訪ね歩いて、アズモルの谷にさしかかったとき、大きな磐石を動かそうと四苦八苦している小さい人たちに出会いました。
私は片手で石をつかんで脇にどけ、下敷きになった小さい人を救ったのですが、そのとき力のかかっていた金の鐙が切れ、私は落馬して両足を地面につけてしまったのです。白馬は高くいななくと同時にかけ去り、そのとたん私の体に恐ろしい変化が起こりました。
目がかすんで見えなくなり、若さが消えてこのようなしわくちゃの老人になってしまったのです。その後、再び白馬が現れることもなく、このような有様で昔の仲間や優しかったニァヴのことを偲んで暮らしているのです」

 

5. イムラヴァ(西方航海譚)の常若の国
「イムラヴァ」とは、中世のケルト人修道士が記録した西方航海譚のこと。

「百戦の王コンの息子、美貌のコンラの冒険」

コン王は2世紀頃ターラに君臨した実在の王です。
ある日コン王は息子のコンラと高台に立っていると、コンラは目に見えぬ誰かと語りだしました。王が驚いて問うと「私はシーの国から来た不老不死の美しい女。コンラを愛してしまったので、彼をマグ・メル(喜びの野)にお招きします。そこは勝利の栄光につつまれた永遠の王が治める国、そこであなたは永遠の若さと魅力を持ち続けられるのです」と答えがありました。
コン王は女の声を聞き、ドルイドのコランに助けを求めましたが、ドルイドの呪文よりも早く女はコンラの手にリンゴを握らせてしまいました。

ひと月あまり、コンラはこの減ることのないリンゴしか食べませんでした。その月の最後の日、女は再び現れて、コンラをマグ・メルへと誘います。コンラは自分の愛する国とその民との別れはつらいのですが、やはりもう一度あの女に会いたいのです、と父王に言うと女が答えて言いました。
「水晶の舟で勝利の神の都に着きさえすれば、悲しみは波の上に置き去られるでしょう。その国は遠いけれど夜になるまでには着くはず。不幸になる者などいない、女と娘たちの歓びの国、そういう国があるのです」
これを聞くやいなや、コンラは水晶の舟に飛び乗り、女とともに去っていきました。その後二人を見た者はいないということです。

「フェバルの息子ブランの航海」

フェバルの息子ブランは丘で美しい調べを聞いてまどろみ、目覚めると手に白いりんごの花が咲く、銀の枝を手にしていました。
城へもどると見知らぬ乙女が現れて、「海の神マナナンの金の馬が岸辺を駆け、冬もなく貧しさも悲しみもなく、遊びやゲームが飽くこともなく続けられているところ、不老不死の美しい女人(エヴナ)の国」へと、まるで歌うように誘い、彼女は消えてしまいました。

27人の仲間とともに航海に出て2日2晩後、ブランは二輪戦車を駆って波の上を走ってくるマナナン・マク・リールと出会います。マナナンは杖をふり海を花が咲く野に変え、魚を羊の群に、鮭を牛に変え、そして乙女と同じようにすばらしい「女人の国」について語り、しっかり漕げば日の沈まないうちに着くであろう、と言い残しました。

「女人の国」にたどり着いたブラン達は女王と楽しい日々を過ごしますが、望郷の念に駆られエリンを目指して船出します。仲間の一人がエリンに足をおろしたとたん、彼は灰となって消え去ってしまいました。
土地の者の話から、ブランは1年くらいと思っていた時間は、実は何百年も経っていたことを悟り、自分の冒険を語った後にいずこへか船で去っていったということです。

 

6. アーサー王伝説の常若の島

「アヴァロン」

アーサー王は傷を癒すために「アヴァロン」へ行ったとなっていますが、「アヴァロン」とはフランス語のアヴァール(地下)を意味していて妖精の国だとする説や、ブリトン語でりんごの島(アイル・オブ・アップル:アングルシー島という説が有力ですが、文学上では「林檎の木のエヴィン(エヴィン・アヴラ)」という島はファース・オブ・クライドのアラン島とされています)とする説、ケルト神話の「常若の国」だとする説など、いろいろあるようです。