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水晶竜の巻

16.ヒルデブラントとハドゥブラント

主な登場人物

一行はさらにアルプスを越えて行った。その地の木こりに、ベルンの町を支配しているのは誰かと尋ねると「ヒルデブラントの息子のハドゥブラント様です」という答えが返ってきた。その方は「大変勇気ある武士だが残忍で自分が常に優位に立たないと気が済まないお方だ」と言うことだった。そして「ローマのエルムリッヒはお亡くなりになられました」と教えてくれた。

ヒルデブラントは常住している公爵の息子のコンラートと近くの町で会い、エルムリッヒが死んで陰険なジフカが実権を掌握していること、息子のハドゥブラントはエッツェル王の宮廷に使いを送りディートリッヒに帰郷を促し、ベルンの町をジフカに明け渡すことを望んでいないと言うこと、ヒルデブラントがコンラートの父親ルートヴィッヒ公爵の所へ尋ねてくるらしいという、うわさがあることなどを聞き知った。

しかしヒルデブラントはディートリッヒとヘルラートと一緒に森から動くことはしなかったので、ルートヴィッヒ公爵が息子のコンラートと共にディートリッヒの所へ参上し、彼を自分の主君として歓迎して跪いて丁重な挨拶をしたのだった。ディートリッヒはベルンの土を踏むまでは他のどの町にも立ち寄りたくなかったので、ルートヴィッヒの町へは入らず森で今後の事を協議した。その間にヒルデブラントは息子の元を訪れようと出かけて行くことにしたが、コンラートに「十分用心して礼儀を尽くし、そして父親であることを知らせないと、彼は横暴で押さえが利かない人だから、殺されてしまうかもしれない」と忠告した。そして「ハドゥブラントは白い馬に乗り靴の釘は金で盾は新雪のように白く輝き真ん中にある町の絵が描かれている」と特徴を教えた。

ヒルデブラントはベルンへ向かって馬を飛ばしていたが、向こうから男が1人やってくるのが見え、コンラートに教えられた通りのいでたちであったので、それはハドゥブラントに違いなかった。ハドゥブラントも自分に向かってくる男が自分を全く恐れる気配が無いのを見て自分と戦うつもりなのだと思い、構えて向かっていった。2人は戦ったがお互いの命を取ろうというほどではなく、しばらくして戦い疲れたので2人とも互いに離れて盾に寄りかかった。

ヒルデブラントは「あなたの父親は?お家柄はどちらでしょうか。私はこの国のどのお家柄も存じております」と話しかけると「私の父はヒルデブラントであるそうですが、その方は妻と子を残し、ディートリッヒ王とその部下と共にこの国から姿を消しました。ディートリッヒに最も好かれた兵士であったらしいが、エルムリッヒの憎しみから逃れるために逃げ出したのです。私はもうこの世の人では無いと思っています」と答えた。
ヒルデブラントは「あなたは今までにこれほど血縁の近い人とは話したことがなかった」といい、エッツェル王からいただいた金の腕輪を外してハドゥブラントに与えようとしたが、彼はかつてフン族にだまされ裏切られた経験があったので、用心して受け取らなかった。

ヒルデブラントは「三十年他の国の兵士の中で多くの戦場を駆け抜けてきましたが、それでも命を落とすことはなかった。いま我が子の手にかかって果てるか、それとも我が子を命に自分が手を下すことになるのであろうか」と言うとハドゥブラントはこの人が自分の父なのだろうか、それとも自分を欺こうとしているのかと考え「あなたがそれ程私と一戦交えたいとおっしゃるなら、私の武器・防具を奪い取ってみよ」といい、2人はまた戦いを始めた。

軍配は父親にあがり、ヒルデブラントはハドゥブラントを組み伏せたが息子がまだ名を証さないので「命が惜しいのなら私の息子ハドゥブラントだと言うのだ。そうすれば私はお前の父親のヒルデブラントであるのだ」ハドゥブラントはついに自分の名を言い、父は息子を自由にしてやった。そしてお互いに認めあい馬に乗ってベルンへと駆けつけた。ハドゥブラントの母親が2人を迎え、ヒルデブラントとその妻は再び会うことが出来たのである。

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