14.エルムリッヒとの会戦 |
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まだ夜が明けないうちにディードリッヒは武装を整え、ヒルデブラントが偵察した浅瀬を渡って敵方へ行進していった。ジフカはディートリッヒとヒルデブラント、その部下ヴィルド・エーヴァーと戦ったが、自分の一番の剛腕司令官のヴァルター・フォン・ヴァスゲンシュタインが、ヴィルド・エーヴァーと激しい一騎打ちの末、相打ちしたのを見て逃げ出してしまったので、ジフカの軍は総崩れとなり、ディートリッヒの軍にほとんど討ち取られてしまった。 ヴィテゲはフン族のナウドング公爵と戦ったが、この一団の中にはエッツェルの息子達とディートヘアもいたのである。ジフカの軍が破れたのを見て、ヴィテゲは激しい攻撃をしかけ、ナウドングと一騎打ちになり、ミームングがナウドングの首を幟の竿ごと衝いて、その首を落とした。それを見たエルプとオルトヴィンは従者が止めるのも聞かず敵につっこんでいったのでヴィテゲとその兵士に殺されてしまった。 2人が殺されたのを知ったディートヘアはヴィテゲに向かっていったが、ヴィテゲはディートヘアと戦う気はなかったので、ただ自分の身を守るだけで攻撃を仕掛けず、「自分はお前の命を狙う気はないから、他の者と戦え」と言った。しかしディートヘアは「自分と兄弟の契りを結んだ者を殺したのだ、生かして置くわけには行かない」と尚も切り込んだ。 相手が戦いをやめないので、ヴィテゲは自分の命を守るため仕方なく応戦し、ミームングがディートヘアの背中を打って切り裂いたので、彼は半分に避けて地面に倒れてしまった。リューデガーはライナルト率いる軍勢と戦ったが、リューデガーの指揮官ウルフハルトを恐れたエルムリッヒの軍勢は総崩れとなり、ジフカもいなくなった今となっては部下の兵士が配送するのをライナルトは止めることが出来なかった。 エルムリッヒの息子と自分の弟、そしてナウドング公爵の死を知らされたディートリッヒは、「神はなぜこのような試練を私に課すのだ。私に残された道は息子達の仇を討つか、死ぬかしかない」と言い、ファルケを駆って軍勢の先頭に立ちヴィテゲの軍勢に向かって「呪われた犬め、貴様は私の邪魔をする気か。兄弟の仇を取ってやる」と怒号したが、ヴィテゲは「何を言っているのかわからない」とうそぶいて逃げていった。ディートリッヒは尚もヴィテゲを追って海辺まで出て、ヴィテゲは海の中へと馬を進めた。ヴィテゲの生死は明らかになっておらず、自ら水の中で命を絶ったとも、また彼の祖先に当たる海の妖精が彼の命を救ったとも伝説は語り継いでいる。 戦場へ取って返したディートリッヒは、三人の若者の亡骸を前にして自分が代わりに重傷を負いたかったと嘆いた。リューデガーたちは高貴な生まれの勇士が戦場で命を落とすことは良くあることだからと慰め、エッツェル王の前ではディートリッヒの味方をすると約束し、この地に留まってディートリッヒと共に戦うと宣言したが、既に多くのフン族の兵士を失っており、ディートリッヒはエルムリッヒと戦う気力はなくなっていたので、フン族の兵士と共にザクセンの国へ帰ることにしたのだった。 エッツェルの元へ戻ってもディートリッヒは王に謁見はせず家に引きこもったままだったので、リューデガーは僅かな供を連れて王に戦の報告をした。息子達が戦死したことを知った女王はディートリッヒは確かに息子の命を保証したのにと泣き崩れたが、ディートリッヒもディートヘアを亡くし息子の仇のヴィテゲを海まで追いつめた話を聞くと、もうディートリッヒを非難することはせず、「それは仕方のないことだったのだ。死ぬと定められた運命からは逃れられない」と言った。 ディートリッヒは相変わらず引きこもって出てこないので、女王は自ら尋ねていって戦のことを聞き、「神は戦の場で時には最良の勇士をお望みになるのです。戦の華と散った人達にお悔やみを申し上げましょう。私たちはあなた方を歓迎いたします」と広間へと誘った。ディートリッヒとエッツェル王の友情は今まで以上に固いものとなったのである。 ラヴェンナの勝利の2年後、女王ヘルヒェは重病に冒され余命幾ばくも無くなったときにディートリッヒを側に呼び、娘ヘルラートとの縁組みを取り持ち、愛娘を妻にもらったディートリッヒはこみ上げる涙を抑えた。女王はいまわの際に「私が死んだ後は良い后を後添えにお考え下さい。ですが、決してブルグンドの夫人、アルドリアン家の夫人はお選びにならないように。もし私の忠告を聞き入れなければ、不幸なことが起こるでしょう」と言い残してこの世を去った。 |
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