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水晶竜の巻

7.ディートライプ

主な登場人物

ある時、皆で蜜酒を飲んでいたとき、ディートリッヒはハイメに「こびとの作った刀ナーゲリングを一番持つにふさわしい男だ」と言って、それをハイメに賜った。ハイメは感謝の言葉を述べてナーゲリングをもらったが、ヴィテゲは「ハイメが持ち主になるとはナーゲリングが可哀相だ」と意義を挟んだ。
かつて要塞の盗賊と戦ったときにハイメはホルンボゲがやってくるまで自分に加勢せずに馬に乗って待っていたのだと語った。それを聞いたディートリッヒは「なんたる恥知らずな!消え失せてしまえ」と怒ったので、ハイメは武器を取り愛馬リスぺにのって出ていってしまった。

ハイメが名誉を挽回しようとさまよっていると、ザクセンの国とデンマークの間にあるファルスターの森にイングラムというヴァイキングが住んでおり、ザクセンの公爵と争っていてまわりに被害を及ぼしている、と聞き及んだ。ハイメはイングラムの所へ行き戦友のよしみを結んで、13人目の仲間となった。

一方、デンマークにはビーテロルフという強い戦士がいた。彼はザクセンの公爵の娘オーダとの間にディートライプという息子がいたが、彼は父親に似ず馬を駆ったり武具を取ったりすることが嫌いで、いつも台所で寝ころんでいた。
ある時ビーテロルフとその妻、従者たちはある権力者の饗宴に招かれたが、ディートライプは突然その宴に同席したいと言い出した。

ビーテロルフとオーダは、兵士と話すことにも慣れていないし、宮廷の身だしなみも知らなくて一体どうするつもりなのだと取り合わなかったが、ディートライプはしつこく父親に連れて行くよう食い下がり、知り合いの農家から武器を借りてきたのを見てしぶしぶいい着物を着せて饗宴に連れて行った。
宴でのディートライプは、このようなことにはすっかり慣れているかのように立派に振舞ったので、父と息子は別の宴にも招かれた。帰り道に二人はファルスターの森を通って行かざるを得なくなった。森では追い剥ぎにあい、父は戦の経験がない息子を心配したが、ディートライプは馬から降りて父と共に激しく戦った。最初イングラムが送り込んできた五人の部下は、何の傷も負わずにやっつけてしまったのでイングラムは残りの部下といっしょに襲いかかってきた。

ビーテロルフはイングラムをまっぷたつに切り裂き残りの盗賊も殺してしまったのでハイメだけが残った。ハイメは打ちかかってきたビーテロルフの兜を激しく打ったのでビーテロルフは落馬し気を失ってしまった。息子は怒りが爆発し、ハイメの兜を打ったのでハイメは腰が砕けてしまい、その様子を見たディートライプは敵をやっつけたものと思ったが、ハイメは飛び上がって馬にまたがると一目三に逃げて行った。

その日はずっとディートライプが追いかけて来るのではないかと思って、ハイメは気が気ではなかったが、そんな事はなかったので気を良くしてベルンまで走りつづけ、ディートリッヒと仲直りをした。一方盗賊の戦利品を携えて帰宅したビーテロルフは、息子の活躍ぶりに大変満足し期待をかけるようになり、立派な装備を息子のために整えてやって祖父のザクセン公爵を訪れたいと言う息子の願いを叶えてやった。ただ、もしベルンの国へ足を踏み入れたとしてもおまえが適う相手ではないからと言って、決してディートリッヒとその仲間とは戦ってはいけないと忠告して息子を送り出した。

ザクセンに向かう途中でディートリッヒがベルンではなくローマの伯父のエルムリッヒのところにいる事を知ったディートライプは、ディートリッヒに会ってから祖父のところへ行くことにした。

ある宿で兵士にどこへ行くのかと尋ねられ、ディートライプは「ディートリッヒ王に奉公して馬のお世話や武器の警護にあたりたいと思っている」と答えると自分たちこそディートリッヒ王の一行であると告げられ、そこでディートライプはディートリッヒに仕えることになり、ローマの宮廷への旅の間馬と武器の警護をまかされた。ディートライプは他の家来人のように厩舎で過ごす事を好まず、食事も王に負けないような豪勢な物を食べ、仲間にも同じように振る舞った。

最初は自分が持っている物で宴会の費用をまかなっていたが、そのうち金が足りなくなり、ヴィテゲの馬スケミングと刀ミームング、ディートリッヒの馬ファルケ、刀エッケザックス、兜のヒルデグリムを質に入れて金を調達し、ご馳走を振る舞い続けた。
ディートライプがご馳走を振る舞っていた広間には、エルムリッヒの召使いなど多くの人間が集まり、多いときには三千人もの人がいたそうである。

宴会が終わって帰ることになり、ディートリッヒは武器を取りだし馬に鞍を置くよう命じたが、ディートライプは「質に入れたので払い戻さなければならない」と言って自分が質に入れた物を数え上げた。これを聞いたディートリッヒは怒り狂い、エルムリッヒ王に召使いが食べた分の費用を払ってくれるのか聞きただした。
エルムリッヒ王はディートライプに釈明を求めると、馬と武具の代金を出して欲しいと言うので、「なんて失礼な馬丁だろう」と呆れた。ディートライプは「立派な君主は自分に対して飲み物も出さずに軽口を叩くことはしない」と言い、エルムリッヒは二人がかりで引きずらなくてはならないほどの大きなカメいっぱいのワインを持ってこさせたが、ディートライプはそれを一息で飲み干してしまったので、「おまえはその他にも何か出来るのか?石も槍も投げられないのだろう」とヴァスゲンシュタインのヴァルターに言われ、命を賭けて石投げとやり投げで勝負することになった。

競技はディートライプの勝利に終わり、エルムリッヒ王はヴァルターの首を金銀で買い戻す事を提案し、ディートライプはその金を王に差し上げるので、ディートリッヒたちの馬と武具を質から出して欲しいと頼んだ。エルムリッヒ王はそのようにし、ディートライプには彼が自分の懐から出した分のお金と高価な甲冑を贈った。ディートリッヒはディートライプを他の仲間と同じように兄弟の契りを結んだ仲間に加えベルンへと帰路についたが、途中で父王ディートマルの死期が近いことを知った。ディートマルはまもなくこの世を去り、ディートリッヒがベルンの王となったが、世界中で最も名だたる君主と見なされていた。

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