紫堂トップページ

古代史研究室へ

水晶竜の巻

13.ディートリッヒがエルムリッヒに対して
   出陣の用意をする

主な登場人物

ディートリッヒがエッツェルの元にとどまっている間、エッツェルの味方をして多くの戦を戦った。その間にディートリッヒの弟ディートヘアは立派な青年に成長し、同い年のエッツェル王の息子エルプとオルトヴィンと、固い友情で結ばれていた。エッツェル王とその女王ヘルヒェもディートヘアを自分の息子同様に可愛がっていた。

ある時いつものようにディートリッヒは女王にご機嫌伺いに行ったが、彼の様子がいつもとは違っているのを見て、女王はいったいどうされたのかと尋ねた。ディートリッヒは「二十歳になる前にベルンやその他の自分の領地から追い出されてしまった事に対して、深い悲しみを禁じ得ません。もちろんこのように良くして下さっているあなた方に感謝しておりますが…」と答えると女王は「今までに戦の折には力を貸していただいたのですから、今度は自分たちがあなた方を助ける番です」とエッツェル王にその事を申し上げた。
王は突然の申し出で最初「なぜ自分で申し出さずに女王に言わせるのか。断られたら諦めるつもりでおるのか?」といい気がしなかったが、女王が「自分が申し上げた方が事が運びやすいと思ったからで、他意はない」と、これまで戦の時に尽くしてくれたことも話すと、態度を和らげ、辺境伯のリューデガーに二千人の武装した兵士をつけることを約束した。

ディートリッヒは王と女王に感謝の意を述べ、冬の間に戦の準備を整えた。出征の準備があらかた整ったころ、女王ヘルヒェは息子2人とディートヘアが集っていたリンゴの木の庭へと入っていき、息子達にディートリッヒ王の為に立派に戦うようにと、武装を整えてやった。鎧も兜も固い鋼鉄で出来ており、黄金や宝石で飾られた立派なものだった。女王は息子達に「勇敢に戦って名誉ある凱旋をするように」と言い、ディートヘアには「陣中の間息子達と離れずにいてやってくれ」と頼んだ。ディートヘアは「2人を無事に連れて戻ってくるが、もし彼らが戦場で倒れたら、その時は自分も戻っては来ない。彼らの仇をきっと討ちます」と女王に誓った。女王はディートヘアにも立派な装備を調えて送り出した。
ディートリッヒは女王に「息子さんの命の安全に責任を持ちます」と誓って出発した。

ディートリッヒは正々堂々と宣戦布告をするつもりでいたので、使者を2人エルムリッヒの元へ送り「ディートリッヒの領土を奪取した謀反者は、今こそその報復を受けるのだ」と伝えさせたが、既に自分の方が優勢であると思ったエルムリッヒは、使者に新しい衣服と上等の馬を授けて友情をこめて送り出してやったのである。エルムリッヒは国中から戦力を募り、一万七千人の兵を集めてヴィテゲを一番の公爵にした。(何故ここにヴィテゲ達がいるのか謎であるが、おそらくディートリッヒを責めたときにエルムリッヒの宮中にいたため、そのまま留まったと思われる)

ジフカとヴィテゲ、ライナルトに戦いを仕掛けるよう命じ、特にヴィテゲにはディートリッヒとその兄弟を逃すことがないよう、さらにエッツェルの息子の首はどんなことがあっても取ってくるのだと要求したが、ヴィテゲはフン族とエッツェルの息子とは戦うが、ディートリッヒたちとは戦わないとはっきり王に言い渡して出陣した。

二組の軍勢はラヴェンナの町の川縁に、南と北に別れて陣を敷いた。夜になるとヒルデブラントは川の浅瀬を通って敵方まで偵察に行ったが、そこで1人の騎士と出会い、言葉を交わすうちにお互いがヒルデブラントとライナルトであることを知った。ライナルトはもともとディートリッヒの部下であり、今もディートリッヒが勝つことを願っていたので、自分たちの陣地の配置をヒルデブラントに教え、ジフカのテント、ヴィテゲのテントと自分のテントを教えた。ヒルデブラントもディートリッヒとリューデガー、エッツェルの息子達のテントを教えた。

ジフカがディートリッヒを狙い、ライナルトがリューデガーたちフン族を狙い、ヴィテゲはエッツェルの息子を狙うために、ディートリッヒの兄弟と一戦交えることになるのは、避けられないだろうと語った。彼らはそれぞれの陣地へ戻っていったが、ジフカがヒルデブラントを見つけてかかっていこうとしたため、ライナルトは「私の友人を殺そうとするならば、まず私が相手になる」と立ちはだかった。「敵の味方をする者はエルムリッヒへの反逆となろう。それでもよいのか」と詰め寄られたためライナルトは「喩え身内を敵に回そうとも私はエルムリッヒに味方するが、単身で潜入して来たものを数を頼りに討ってかかるのは卑怯な振る舞いだ」と答えたので、ジフカはヒルデブラントを追いかけることを諦めた。

<<Back | Next>>