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水晶竜の巻

12.エルムリッヒがディートリッヒをベルンから追放する

主な登場人物

ジフカの次の標的はベルンのディートリッヒとなった。

ジフカはエルムリッヒに「ディートリッヒはあなた様と同じくらい強力になろうとしており、彼の陰謀に対して軍備を固めるべきかと存じます」と申し上げた。王は「アーメルングの土地は元々自分の父の物であったのだから、当然私の物であるはずだ」と思い、ジフカの提案どおり領土の譲渡を要求して、ライナルトと六十人の兵士をアーメルングの国へと送った。その事を聞き及んだベルンの町の人々は民会を召集し、今までディートリッヒに納めていた税金をどうすべきか討論したが、今すぐエルムリッヒに納めるつもりはなかったので、ディートリッヒに相談した。ディートリッヒは「自分がアーメルングの王でいる間は、エルムリッヒに支払う必要はない」と公言した。

ライナルトはその事を報告しにエルムリッヒの元へ戻ったが、以前にエルムリッヒの城へ行く許可をもらっていたハイメとヴィテゲは、ちょうどそこに居合わせた。エルムリッヒは「ディートリッヒが私の要求を突っぱねたから、彼に戦いを挑むのだ。あの者が私と同等になるなどどうして出来ようか。ディートリッヒの首を落としてやれば、誰が優勢なのか分かろうというものだ」とハイメとヴィテゲに言った。

ハイメは「あなたが多くの親戚や味方の命を奪うのであれば、当然その報いをせねばならないのですよ。どうして陰険なジフカの言うことに耳を貸すのです」と言い、ヴィテゲも「このようなことは王にとっての一番の恥辱です」と訴えて、馬に乗って急いでベルンへと引き返したので、真夜中ごろベルンの町の城門へたどり着いた。

今やエルムリッヒが兵士を残らず連れてディートリッヒ急襲へと急いでいることを知らされたディートリッヒは、位の高い臣下を全て集め、「エルムリッヒの軍勢にはとても適わないだろう。勇敢に彼らに立ち向かって行けば、多くの敵勢を殺し我々も名誉ある最後を遂げることになろうが、それでは意味がない。ここは賢明に引き下がり、生きながらえて反撃の時を待つべきだと思う」と言った。
ヒルデブラントも「国土をいったん明け渡し、我が王ディートリッヒに賛同する者は武装を整えるのだ」と皆を諭したので、ほぼ全員がディートリッヒの意見に賛成し、残る婦人と乙女たちと別れを惜しんで涙を流した。その時ハイメが飛び込んできて、エルムリッヒがもう既に何千もの兵士と共に町のすぐ前まで迫っていることを報告すると、「我々が面子を捨ててエルムリッヒの軍勢を避けたことが、エルムリッヒにとって大きな恥辱となってくれればよいが」と誓うような口調でディートリッヒは言い、アルプスに沿ってエルムリッヒの国を目指して進み、エルムリッヒの町と村を踏み荒らしたのだった。

ハイメとヴィテゲは単身ディートリッヒの元を離れ、エルムリッヒの所へ向かった。「あなたは自分の息子を死なせただけでなく、甥のディートリッヒまで彼の領土から追い出そうとしている。なぜジフカの言葉だけに耳を傾けるのか」ハイメは怒ってこうエルムリッヒに言うと、ジフカは「私は前から思い上がったハイメの言葉には注意するよう申し上げております」と王に申し上げたのでハイメはかんかんになった。「今ここに刀があればお前なんか犬ころのように殺してやるのに!」刀がないのでハイメは素手でジフカを殴ったので彼は歯が5本抜け落ちて王の足下に倒れて気絶してしまった。

エルムリッヒはハイメを捕らえて処刑するよう申しつけたが、それよりも早くハイメは自分の武器を取り馬に乗って逃走したが、城門ではヴィテゲはミームングを抜いて構えていたので兵士はそれ以上進む勇気がなく、ハイメは森の中へ逃げおおせることが出来た。ハイメはしばらく森にとどまったが、ジフカとエルムリッヒ王の屋敷を襲い、焼き払ってしまったので、ジフカは逃げ出すのに精一杯で、エルムリッヒは森に潜むハイメの影に怯えながらも生き延びることが出来た。

ザクセン王国の辺境伯のリューデガーがこの戦のことを聞き及び、ゴーテリンドとその兵士と共に国なき国王となってしまったディートリッヒを迎えに行き、歓迎の印として旗や武器・馬・金などを気前よく贈り、自分の城ベッヒラーレンへと招いて豪華なもてなしをした。

ディートリッヒはしばらくそこへ滞在した後、リューデガーと共にエッツェル王の元へと訪ねていったが、その事を知ったエッツェル王は自ら多くの部下を連れてディートリッヒを出迎え、ディートリッヒに敬意を表して饗宴を催し好きなだけ自分の所へ滞在なさって下さいと申し上げた。ディートリッヒはその申し出に感謝し、四年の間そこに留まったのであった。

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