8.こびとの王ラウリン |
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父王が亡くなってディートリッヒがベルンの王となったが、ディートリッヒは人々から威力や、正義と寛容な態度を賞賛されていた。 ディートリッヒは2人の会話を聞いていたが、「本当にそのこびとたちが強いのだったら、もっと早くに自分にその存在を言ってくれてもよさそうなものだ」とヒルデブラントに言うと彼は「チロルの奥深くにラウリンと名乗る王が君臨していて、多くのこびとが彼の元に仕えている。彼は指尺三つくらいの長さしかないが魔術の心得があり、ラウリンが住んでいる洞穴には宝石の灯りで明るく、彼ほど豊かな生活をしている者はいない。戦でラウリンに勝ったものもなく、彼は自分の薔薇の庭を絹の紐でもってとても大切に保護していて、その庭に踏み込んで彼の薔薇に危害を加える者は、手足を切り取ってしまうそうだ」と教えた。 ディートリッヒとヴィテゲはラウリンに挑戦してみたくなり、まもなく2人で出かけていった。木の生い茂る森を通ってチロルまで行き、ある草原に出たがそこで火花を出して光る物を見た。びっくりして近づいてみると絹の紐に突き当たり、その奥には無数の赤い薔薇が金色の縁飾りと宝石、その他の飾り物に覆われて咲き誇っていた。 そこへラウリンがのろじか程の大きさの馬に乗って現れたが、彼の甲冑は金で出来ていて馬勒は宝石で飾られ、竜の血で固められた鎧はどんな刀も歯が立たなかった。金色の兜はルビーと石榴石が萌えるように光り、ラウリン自身は神聖なものから放出されてくるような色の鮮やかな金色の輝きで満ちていた。 それを聞いてヴィテゲは怒ったが、ディートリッヒが「小人にも大事にすべき物はあり、こびとの方が人よりも立派なこともある」とたしなめると「こびとに頭を下げるなどとねずみにも軽蔑される行為だ」とさらに怒った。 ディートリッヒが槍を構えた瞬間、王を心配して秘かに後をついてきたヒルデブラント、ヴォルフハルト、ディートライプの3人が突き進んできた。ヒルデブラントが「ラウリンの足下を打ち、そいつの耳の当たりを刀の柄で殴れ」と忠告し、その通りにこびとの兜に一撃するとこびとは意識を失ったが素早くポケットの魔法の頭巾を取り出し被ったので、皆にはラウリンの姿が見えなくなってしまった。 ラウリンはたくみにディートリッヒを打ち、ディートリッヒは重傷を負って兜から血が流れた。このままでは殺されてしまうとみて、ヒルデブラントは武器を捨てて素手で組み合うよう、ディートリッヒに忠告し、ディートリッヒは素手で向かっていったがラウリンはあらん限りの力で向かってきたので、2人はクローバーの中に転倒してしまった。ディートリッヒは素早く飛び上がってラウリンの魔法の頭巾を奪い取った。力を奪われたラウリンの叫び声は当たり一杯に響きわたり、「ディートリッヒの家来になり、持てる全ての物を差し出すから」と命乞いしたが、ディートリッヒは尚も打ってかかっていったので、ラウリンはディートライプの方を向いて「あなたの妹キューンヒルトは私の所にいます。助けてもらえなければ、あなたは二度と妹とは会えませんよ」と言った。 ディートライプはラウリンの処置を自分に任せて欲しいと言ったが、ディートリッヒはその訴えをはねつけたので、ディートライプはラウリンを奪い取って馬に乗って逃げ去った。 ラウリンもモミの森からやって来ており、彼らの仲間に加えられた。ディートライプはラウリンに妹の消息を訪ねると、秀麗なキューンヒルトを自分の妻にしようと菩提樹の近くでさらい、自分の城に連れてきたことを話したが、彼女はいまだ純潔な乙女であることを断言した。ディートライプは「妹に会わせてくれ。お前の言っていることが本当で、なおかつ妹が望むなら彼女を妻にすることを認める」と言うがラウリンは「互いに仲間になって仲良くしようじゃないか」と提案し、王の仲間たちは互いに助け合い忠誠を誓い合ったが、ヴィテゲはこびとのよからぬ仕打ちを心配していたので、渋々仲間に加わった。 ラウリンは皆を自分の国に招いたが、こびとの事情にかなり通じているヒルデブラントは行くことを渋った。ディートリッヒとヴォルフハルトは「ラウリンの国を詳しく探れば、いざというときに備えられるだろう」「ラウリンの麗しい人を見てみたい」と行くことに賛成した。ヴィテゲは尚もこびとの策略について警告したが、皆の気持ちを変えることができず、一行はラウリンの国へと出発する。 彼らはラウリンと共に岩の扉を通り山の中へと入って行き、金のベンチに象牙のテーブル、まわりの壁には宝石が輝いて明るくしている広間で最良のワインと蜜酒を銀の食器でご馳走になった。皆は歌を歌ったりやり投げや石投げの競争をして楽しんだ。そのうち、キューンヒルトが金と銀の高価な飾り物を身につけて姿を現し、兄のディートライプを抱きしめてこっそり「こびとの世界はもう十分だから人の世界に戻りたい」と囁いた。ディートライプは「命に賭けてもお前を救い出そう」と約束する。 ラウリンはキューンヒルトに「自分の庭をめちゃめちゃにした償いに彼らに何をさせようか」と訪ねるが、ラウリンの冷酷な性格を知っているキューンヒルトは「どう処罰しても命だけは取らないで下さい」と乞い願うのが精一杯であった。よその国の者を殺すことはしない、と彼女を安心させてラウリンはこっそり魔法の金の指輪をはめ、十二人力の力を取り戻した。そしてディートライプに「仲間と縁を切ればお前に財産を分かち与えよう」と言うがディートライプは「仲間を裏切るくらいなら、命などいらぬ」と逆らったので考えを改めるまではこの部屋から出さないと言い、夫人部屋に鉤をかけてディートライプを閉じこめてしまった。 目が覚めるとディートリッヒは自分になされた仕打ち、特に忠誠の誓いを破ったことに大変怒り、手が自由になったところで足にはめられていた鎖を外し、仲間の鎖と猿ぐつわも引き裂いた。4人はどうやったら抜け出せるかを地下深くで相談していた。一方妹に助け出されたディートライプは「武器さえあれば仲間を助け出すことが出来るのだが」と言うがキューンヒルトは「こびとは姿が見えなくなる簑を来て戦うのでどんなに力があってもむだです。この指輪をはめれば、こびとが見えるようになります」と指輪を渡し、武技の保管庫へを兄を連れていき装備を整えて、他の仲間のための武具も取って、とらわれている地下牢へとこっそりそれを投げ落としてやった。 ディートライプが逃げたことを知り、ラウリンは何千ものこびとたちを集めてディートリッヒたちにけしかけたので、後からきりなく涌いてくるこびとたちに彼らは苦戦していた。なんとかヒルデブラントとディートリッヒは地下牢から這い出したものの、そこには姿のない敵が待ち受け、どのように戦ったらよいかわからないでいた。ヒルデブラントはラウリンから奪った魔法の頭巾のことを思い出し、それを被るとラウリンの右手に魔法の指輪がはまっているのを見た。ヒルデブラントは見えるようになったこびとを次々となぎ倒し、ディートリッヒに「ラウリンの右手の指を切り落ちして、自分の所へ持ってくるように」と忠告する。 ディートリッヒは激しくラウリンに打ちかかっていったがラウリンも激しく応戦してきた。ディートリッヒはまたもラウリンが誓いを無視したことに激しい憤りを感じ、その憤怒が吐く息を瞋恚の炎と変えラウリンの指輪に浸み通っていき、ついに指輪の熱がラウリンの指を切り落としてしまった。ディートリッヒは指をヒルデブラントに投げ、ヒルデブラントはその指から指輪を外し自分がはめた。すると1人のこびとが山の麓へ逃げていき、そこで角笛を吹き鳴らすと5人の巨人が現れ、長い鉄の棒を持ってこびとたちを助けにやって来た。 一時は負けを覚悟したラウリンだったが巨人達を見て戦意を盛り返し、戦場はまた大乱闘になった。ヴィテゲとヴォルフハルトはようやく地下牢から這い出したが、仲間が見えない敵と戦っている姿をみてどうしたものかと思っていると、キューンヒルトがやってきて指輪を渡してくれたので、それをはめて自慢の刀で巨人に向かっていき、2人の巨人を倒した。 巨人たちは殺害され、ラウリンは囚われの身となった。ラウリンは「こびとの民を殺さないで欲しい。彼らは皆揃って、あなたに誠の心を持ってお仕えいたします」と懇願するが、一度裏切られたディートリッヒは聞き入れようとしなかったので、キューンヒルトがラウリンと彼の民の命乞いを必死に頼み込んだ。その様子をみたヒルデブラントが、若く美しい婦人の願いを聞き入れてラウリンを捕虜としてベルンに連行し、こびとたちは彼らの山で鍛冶の仕事をさせたらどうかと諫め、他の者もこびとたちに同情したのでディートリッヒは折れてその要求に応じた。山にあった宝物は全てベルンへと運ばれ、ディートリッヒはラウリンの代わりにジントラムという位の高かったこびとを代官として任命し、ラウリンはベルンの城でペテン師としてさらし者にされた。 後にラウリンはディートリッヒに改めて忠誠を誓ったのでディートリッヒはラウリンを国へと送り返してやったが、今度は忠誠の誓いを守り通したということである。 |
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