4巻で毛人が厩戸王子と共に、司馬達等の家を訪れたときに(池に飛び込んだ後のことです)ご馳走になった、「鮓」と「醍醐」とは、いったいどんなものだったのでしょう?
鮓(すし)
「すし」とは「酢し」の事で、元は塩漬けで保存していた魚介類が、自然に発酵して、酸味を生じたものだったようです。
当時の鮓(鮨)は、現在のお寿司とは違い、酢飯の上に生魚を載せるというものではなく、魚・貝の保存食だったと思われます。
また、記録に残っているものでは、10世紀初めの「延喜式」に
タイずし(伊勢) |
フナずし(近江、筑紫) |
阿米魚(あめのうお)ずし(近江) |
胎貝(いがい)ずし(伊予、三河、伊勢) |
アワビの甘ずし(若狭) |
胎貝(いがい)と海鞘(ほや)のまぜずし(若狭) |
サバずし(讃岐) |
雑魚(ざこ)ずし(志摩、伊勢、尾張、備前、阿波、淡路、若狭) |
などが見えますが、いずれも魚貝のみで、飯はありませんでした。
醍醐(だいご)
乳製品には『乳、酪、生酥、熟酥、醍醐』という5つの種類があります。
【乳】
牛乳のことですね。
【酪(らく)】
今で言う、ヨーグルトのことです。
【蘇(そ)】
搾りたての牛乳を煮詰めたもの。焦がさないように長時間かけて1/10位の分量にまで煮詰めた、バターとチーズの中間ぐらいの食品です。出来たてのものは、しっとりとしてクッキーの生地のような感じみたいですが、私が以前に、奈良の石舞台古墳前のお店で買い求めた、「飛鳥の蘇」という商品は、石鹸くらいの大きさの固形物でした。匂いは甘ったるいミルクの香りがすごくします。味はチーズというよりは、キャラメルに近い味です。砂糖を加えていない割には、甘みも結構あり、こってりと濃厚です。一度にはたくさん食べられません(飽きちゃうのです)。
また、中国では「酥」と書いたものが、シルクロードを渡って日本に入ってきた時点で、「蘇」と呼ばれるようになったという説もあります。
【生酥(なまそ)】
生乳を、表面に膜が張らないよう、焦げないように約1日煮詰めます。一晩放置すると、表面に乳脂肪分が固まって、浮いてきます。これが「生酥」です。
【熟酥(じゅくそ)】
「生酥」のみを「蘇」から取り分け、更に焦げないように加熱します。「生酥」が濃縮されたものが「熟酥」です。
【醍醐(だいご)】
「熟酥」の表面には、脂肪の玉がたくさん浮いています。湯煎にかけると油分が溶けて分離してきます。この溶けだした油が「醍醐」なのです。見た目は溶けたバターのようですが、バターから油臭さを抜いてさっぱりさせたような味で、とても美味しいらしい。常温でも液体の状態を保持している事もあったそうです。「醍醐」には、この上もない、最上の、という意味があります。
涅槃経には、こんな記述があるとか。
「牛より乳を出し、乳より酪を出し、酪より生蘇を出し、生蘇より熟味を出し、熟味より醍醐を出す。醍醐は最上なり。もし服する者あらば衆病皆除く。あらゆる諸楽ことごとくその中に入るがごとく仏もまたかくのごとし。」
また、「醍醐」というのは『乳、酪、生酥、熟酥、醍醐という五味の第五(五番目)。乳を精製して得られる最上の美味なるもの』の意味で、同時に仏教の最高真理に例えられ、今日いわれる『醍醐味』も、ここから来ているのだそうです。